認知症の夫がいるのですが、何か相続対策はできますか?

「夫が認知症になってしまったけど、遺言って書けるの?」

「認知症になる前にやっておいたほうがいいことってあるの?」

 

こんにちは、直政です。

高齢化社会に伴い、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると言われています。

つまりは、認知症の方の相続問題というのも増えることが予想されます。

「認知症の夫がいるのですが、何か相続対策はできますか?」とういうご質問をいただきましたので、本日はそのご質問につきご回答いたします。

認知症は、民法上は意思能力の問題となりますので、まずはそこからご説明いたします。

1.制限行為能力者とは

制限行為能力者については、民法に規定されています。

認知症を患っている方は、その症状の重症度により下記のいずれかに該当するのです。

・成年被後見人・・・意思能力を欠く者

日常の買い物などもできない状態です。

・被保佐人・・・意思能力が著しく不十分な者

日常の買い物などはできるけど、契約などの重要な行為はできない状態です。

・被補助人・・・意思能力が不十分な者

契約などの重要な行為はできるかもしれないけど、ちゃんとできるかわからない状態です。

ただ、自動的に上記のいずれかになるわけではありません。

家庭裁判所に申し立てをして、審判を経て確定されることが必要です。

制限行為能力者が行った法律行為は、無効になったり取り消しの対象となります。

つまり、相続対策として行う不動産の購入や生命保険の加入ができないということになります。

したがって、認知症になってしまった場合には相続対策はできません。

「成年後見人になれば、財産とかの処分ができるんじゃないの?」

そう思ってらっしゃるかもしれませんが、それはできません。

制限行為能力者制度とは、制限行為能力者を守るための制度だからです。

2.制限行為能力者制度の趣旨

例えば後見の場合ですと、認知症の方が被後見人、管理をする人が後見人になります。

後見人の役割は、被後見人のために資産管理や契約行為といったことを行います。

全ては、被後見人のために行うのです。

では、相続対策についてはどうでしょうか。

そもそも、相続対策は誰のために行うものですか?

相続人、残された家族のために行うものですね。

後見制度と相続対策というのは、向いている方向が真逆なのです。

後見人が、不動産を購入したり贈与を行うということは、被後見人の財産を減少させる行為であり、許されません。

では、認知症の方の相続対策としては何が正解なのでしょうか。

3.認知症になる前に対策をしておく

認知症になってしまった後では、残念ながら相続対策はできません。

したがって、認知症になる前に対策しておくしかないのです。

最近は、任意後見制度や家族信託といった方法があります。

・任意後見制度

意思能力がまだしっかりとある段階で、もし自分が認知症などになってしまった場合は、あらかじめ指定した人に財産管理などを任せるという契約をしておく制度です。

契約内容などを事前に決めることができるので、自分の意思などを反映させることができます。

・家族信託

家族信託も、意思能力がまだしっかりとある段階で行うことに変わりはありません。不動産や預貯金といった財産を家族に託し、管理や処分を任せるという制度です。家族が資産運用をするイメージですね。後見制度のように家庭裁判所が絡まない分、制約があまりないのが特徴です。

もちろん、スタンダードな方法である遺言書を残しておくというのも対策の一つです。

どの方法をとるのかは、完全にケースバイケースです。

それぞれ、メリットデメリットがありますので、家族構成やその関係性、財産の内容などによって、選択も変わってくるでしょう。

私としては、まずは遺言書を作成しておくことをおすすめします。

人間である以上、その時々によって考えというのは変わるものです。

今は長男に自宅を相続させたいと思っていても、1年後には次男に相続させたいと思っているかもしれません。

財産だって、日に日に増減したりするものです。

遺言書は、比較的すぐに作成することができます。

毎月書き換えてたらさすがにやりすぎですが、1年に1回見直して、必要があれば修正するということは可能です。

また、任意後見や家族信託をやるにしても、遺言書を作成しておくこと自体は何の問題もありません。

それであれば、念には念を押して遺言書を作成しておいたほうが、最善のリスク管理になるのではないでしょうか。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

結論としましては、認知症になってしまうと相続対策を行うことはできません。

認知症になるかどうか、いつなるのかは誰にもわかりません。

今後の相続対策は、相続トラブルや相続税だけではなく、認知症というリスクも想定した上で行っていくことが必要です。

なぜなら、わからなくなってしまっては「想い」を残すことさえもできなくなってしまうからです。

認知症だけではなく、人生はいつ何があるのかわかりません。

最善の相続対策は、今動いておくことなのです。

家族に「想い」を残すためにも、是非今動いていただければと思います。